【おニャン子クラブ事件】

  • 東京高判平成3年9月26日(判時1400号3頁、判タ772号246頁)

  • 事案
    「おニャン子クラブ」に属するタレントの肖像、氏名を無断でカレンダーに使用し・販売した業者に対して、氏名・肖像使用権の侵害を理由として、カレンダーの製造販売の差止と損害賠償請求を行った事件

  • 判旨(パブリシティ権に関係する部分のみ)

    判決は、差止請求権の根拠を検討する中で芸能人の氏名・肖像の利用について次のように判示した。

二 控訴人商品の販売行為の差止請求権等について
 原判決二五頁末行から二七頁末行までを次のとおり改める。

 前記一の事実によれば、被控訴人らはいわゆる芸能人であり、その芸能人としての評価は、自己の出演、所属プロダクションやマスメディアを通じての宣伝活動等により、広く全国にその氏名・肖像が知られ、大衆の人気を博することによって高められるのであり、被控訴人らも、このように自己の氏名・肖像が知られることにより評価が高められることを望んでいるものと推認して差支えない。そして、かように氏名・肖像を利用して自己の存在を広く大衆に訴えることを望むいわゆる芸能人にとって、私事性を中核とする人格的利益の享受の面においては、一般私人とは異なる制約を受けざるを得ない。すなわち、これを芸能人の氏名・肖像の使用行為についてみると、当該芸能人の社会的評価の低下をもたらすような使用行為はともかくとして、社会的に許容される方法、態様等による使用行為については、当該芸能人の周知性を高めるものではあっても、その人格的利益を毀損するものとは解し難いところである。
 反面、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した芸能人の氏名・肖像を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に効果をもたらすことがあることは、公知のところである。そして、芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値として把握することが可能であるから、これが当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のことというべきであり、当該芸能人は、かかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。したがって、右権利に基づきその侵害行為に対しては差止め及び侵害の防止を実効あらしめるために侵害物件の廃棄を求めることができるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記のように、控訴人は被控訴人らの氏名・肖像が表記されたカレンダーを、被控訴人らに無断で販売し、将来も無断のまま販売するおそれがあるというところ、控訴人商品の一部であることが認められる検甲第一ないし同五号証によれば、右カレンダーは、年月日の記載以外は殆ど被控訴人らの氏名・肖像で占められており、他にこれといった特徴も有していないことが認められることからすると、その顧客吸引力は専ら被控訴人らの氏名・肖像のもつ顧客吸引力に依存しているものと解するのが相当である。そうすると、被控訴人らは、控訴人の控訴人商品の販売行為に対し、前記の財産的権利に基づき、差止請求権を、また、侵害物件である控訴人商品については差止めを実効あらしめる必要上廃棄請求権を、それぞれ有するものと解すべきである。


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